大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和37年(わ)503号 判決

被告人 桑本亀吉

明三三・一・一〇生 菓子製造業

主文

被告人を罰金二千円に処する。

若し右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和二十一年四月頃から熊本市黒髪町坪井二百七番地の日本基督教青年会同盟維持団体所有の花陵会寮、木造瓦葺二階建家屋一棟に、其頃居住していた実母桑本チズとの縁故を頼つて同居し、その後右家屋中階下台所十畳の部屋の外数室に居住していた者であるが、先に右財団より家屋明渡の請求を受け、同財団との間における熊本地方裁判所昭和三十一年(ワ)第五四八号家屋明渡並びに昭和三十二年(ワ)第三四七号家屋明渡反訴の民事訴訟にも敗訴し、右判決は昭和三十五年八月十九日最高裁判所第二小法廷の上告棄却の判決により確定し、昭和三十六年二月二十六日右明渡の強制執行の委任を受けた執行吏は、被告人の居住する前記台所並びに他一室を被告人より明渡しを受け、これを前記財団に引渡した。従つて、同日右家屋部分は同寮理事江藤安純の管理に属するに至つたにもかかわらず、被告人は同年三月上旬頃、再び右台所に居住の目的を以て、勝手に右台所十畳の部屋に立入り同家屋玄関正面の部屋と右台所との境に一間巾の戸棚一個を置いて、同所からの出入りができないようにし、以て同所を占拠使用して前記財団所有の右不動産を侵奪したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第二百三十五条の二に該当する。しかしながら、本件について当審において訴因の変更せられるより前に、差戻前の熊本簡易裁判所においては、昭和三十七年三月八日刑法第百三十条の建造物侵入罪により罰金二千円の判決言渡を受けていたこと、被告人がこれを不服として控訴した結果、同年八月二十二日福岡高等裁判所において原判決破棄原裁判所に差戻の判決言渡があり、本件は同裁判所に差戻されたが、同年十月二十四日同裁判所より当裁判所に事件の移送があつたこと、及び本件が被告人のみの控訴した事件であること記録上明白である。ところで、このように被告人のみの控訴により原判決が破棄せられ事件の差戻があつた場合においては、差戻后の事件の審理をなすべき第一審の裁判所は、その破棄された前判決との関係において刑事訴訟法第四百二条の不利益変更禁止の原則に従うべきものと解するのが相当であるから、被告人を本件差戻前の第一審の判決の刑である罰金刑を以て処断するものとし、被告人を罰金二千円に処し、これを完納することができないときは、刑法第十八条により金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人に負担させる。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例